書評<同志少女よ、敵を撃て>
ナチスドイツのソ連侵攻により、小さな農村に住む少女セラフィマの日常は奪われた。両親とともに虐殺される運命にあったセラフィマを救ったのは、ベテランスナイパーのイリーナだった。狩猟を日常にしていたセラフィマはイリーナに拾われ、彼女が教師を務める”女性狙撃手学校”の生徒になる。ソ連的な優等生、滅びつつあるコサックの末裔、NKVDの内部調査員など、様々な背景を持つ少女たちがスナイパーとして育ち、やがて地獄に放り込まれることとなる。
新人にして著名な賞を獲得した話題作。正直な話、戦記物やスナイパーの自伝などを読み漁っているミリオタには”どこかで読んだ話」”が多いのだが、全体として貫かれる「なぜ戦うのか」という普遍的なテーマと、隊員たちが互いに支えあう場面がこの物語を特別なものとしている。さらに、独ソ戦の最終局面の戦闘に参加する最後の120ページでのドイツのベテランスナイパーとの駆け引きは別格だ。知恵と、スナイパーが持つ独特”自分の世界の物語”を互いに読みあい、どちらがどのタイミングでトリガーを引くのか?生き残るためには一般兵士をどう騙すか?息をつかせない物語は、ミステリーとしても一級品である。
初版2020/11 早川書房/kindle版
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