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2022.01.25

書評<日独伊三国同盟 「根拠なき確信」と「無責任」の果てに>

日本はなぜ太平洋戦争開戦に踏み切ったのか?開戦への経緯には様々な要因が絡み合っているが、本書は日独伊三国同盟成立までの歴史と、その同盟を調印することに関わった人物たちに焦点を当てる。いわば”外務書から見た太平洋開戦”である。

自分はいわゆるミリタリーマニアなので、太平洋戦争開戦までに至る経緯に関しては、陸軍・海軍を中心にした分析に関する知識しかなく、非常に新鮮に読めた。本書は三国同盟成立までの経緯をまとめているが、帝国政府に対して虚偽様々な策を弄して同盟への道を築いた外交官大島浩と、国際連盟脱退の際の演説で国民のヒーローとなった松岡洋右を中心に据えた人物批評の書、ともいえる。本書を読むと、強烈なドイツびいきであった大島浩、ヒステリックな言動で日本外交を惑わせた松岡洋右こそが、日本をアメリカとの無謀な戦争に至る道を作ったと早とちりしそうになる。それくらいに、彼らの行動と言動には影響力があったのだ。いまだに「軍部独走説」を唱える人もいるが、”戦争への道”はシビリアンである外交官も大きく関わっているのである。

翻って現在、とにかく日本と西欧の国を比べたがるジャーナリスト、無根拠な「日本はすごい」説を唱える作家など、大島や松岡に繋がるような人物をよく見かける。”外交の失敗”は”国民の失敗”であることを、我々はよく考えなければならない。

 

初版2021/11   KADOKAWA/kindle版

2022.01.24

書評<’80sリアルロボットプラスチックモデル回顧録>

1980年7月、日本のプラモデルシーンならず子供たちのホビーを一変させるキット、「1/144RX-78ガンダム」が発売される。以後1984年に急速にそのブームが去るまで、シーンは異様な盛り上がりを続ける。次々と放映される新作ロボットアニメ、それに併せて過剰なまでに供給されるプラスチックモデル。新規参戦するおもちゃメーカーも現れるが、やがてブームは終わり、おもちゃメーカーには清算や倒産といった現実を突きつける。あのころ、起きたこととは何だったのか?こどもたちがキットを確保するために奔走するなか、おもちゃメーカーやメディアの中ではどのようなことが起こっていたのか。このブームを体験し、のちに「ガンダム・センチネル」など、メディア側の情報発信者となるあさのまさひこ氏が対談形式で語る”歴史書”。

本書にいわゆる資料的価値はない。現実に起こっていたことと、後に著者のあさのまさひこ氏が関係者へのインタビューで得た証言を中心に、ファーストガンダムを中心としたリアルロボットプラモブームとは何かをホスト役の五十嵐浩司と語り合う。これを書いている私を含めた現在50歳前後の「かつての男子」に強烈な”傷痕”を残したいわゆるガンプラブームは、現代のように洗練されたメディアミックスや商品企画によって起こったものではない。ゆえに送り手も受け取り手も手探りで、特異的な現象が次々と起きた。著者たちのブームの分析は的確であり、濃密な4年間の記録となっている。

しかし、である著者のあさのまさひこ氏が1965年生まれ。私は1972年生まれ。いわばただの”消費者”であった当時小学生の自分と、7つ年上ですでに批評家であり、クリエイターでもあった著者と共通体験があったとは言い難い。いわば”マニアのお兄さん”の話を聞いた感じとでも言おうか。さらにいえば、東京住みと地方住みの差は大きい。模型店など周辺から様々な周辺情報が入ってくる著者と、「文房具・スポーツ用品・模型その他地元中高生向けなんでも屋」でプラモの入荷を待っているだけの私とは体験の濃さはともかく、内容が違うのだ。そういう意味で、強烈な共通体験と歴史書を読む体験の中間的な読書艦が残る著書であった。

初版2022/01   竹書房/kindle版

 

2022.01.23

F-4EJ"2003MISAWA JASDF Pre-50thANNIV"Completed

ファインモールドF-4EJ改”2003年三沢基地航空祭スペシャルマーキング”完成しました。

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F-4EJは先日、惜しまれながら引退した空自の主力戦闘機。その近代化バージョンであるF-4EJ改はFCSを中心にアップデートされ、ASMを搭載することが出来るようになり、三沢基地の8SQなどFS(支援戦闘機)部隊にも配備されました。

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キットはファインモールドの2020年の新商品。多くのファンの期待通り、繊細なモールドと組み立てやすさを両立したキットで、過去のファントムⅡのキットのネガをほぼ潰しています。スジ彫りの掘り直しが面倒な機首上面や背中は別パーツ、ジェットノズル付近の金属剝き出し箇所も別パーツとなり、その気になれば別々で塗装し、接着可能。ただし、別パーツ化ゆえにストレートのままだとややスキマ開くため、すり合わせは必要。今回の製作では流し込み系接着剤で合わせた後、1000番でサンディングして平滑にしただけなので、分割部分がスジ彫りとしてはややオーバーな表現になっています。

また、ジェットノズルや垂直尾翼付近の焼け具合はモデラー各自の腕の見せ所ですが、今回はHMAメタリズムシリーズのデカールを使用。ほぼ違和感なくお手軽に焼け具合を再現出来ます。

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塗装は2003年の三沢基地航空祭記念塗装をプラッツの別売デカールにて再現。今回はモールドを潰さないよう、サフレス仕上げでエアブラシにてカウンターシェイド塗装をしたのですが、予想以上にしっとりした塗面になり、嬉しい驚き。サーフェサーを必須で使っていましたが、見直しが必要ですね。

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今後、様々な塗装で作るであろうキットの習作として、キットの素性を生かすためにあえて最低限のサンディングで仕上げましたが、個人的には充分な出来。今後のバリエーション展開がさらに楽しみになりました。

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2022.01.07

書評<エジプトの空の下>

気鋭のイスラム学者である飯島陽女史が、エジプトに滞在していたときの数々のエピソードをまとめたエッセイ集。遠く日本からは見えない、イスラム教の国、エジプトでの生活の実際や隣国との関係などを綴っていく。

ヘタすればIS(イスラム国)のカリフ制さえ支持し、アラブ各国の理不尽を欧米のせいにしたがる従来の日本のイスラム学者とは一線を引き、コーランに基づいたイスラム教徒の実際を指摘する著者。イスラム教では明確に男性と区別、差別される女性であり、母親であり、もちろん外国人でもある著者のエジプトでの生活の苦労を本書は伝えている。エジプトはアフリカにおいては大国ではあるが、インフラその他で日本には遠く及ばず、また宗教の違いはいかんともし難い価値観の違いがある。それでも著者はその性格ゆえか、大胆にエジプトで生活していた。かの地での経験が、今の著者の信条に大きく影響しているのは間違いない。

本エッセイが貴重なのは、著者が滞在していた期間にいわゆる”アラブの春”が起こったことであろう。エジプトでの民主革命とはいかなるものであったか、そしてその反動である軍事クーデターの後のエジプトの実相を本書は伝える。イスラム教が国教の国での”民主革命”とは何か、そもそも民主主義とは何か?言論の自由とは何か?考えさせられる一冊である。

 

初版2021/11    晶文社/kindle版

2022.01.06

書評<ULTRAS ウルトラス 世界最凶のゴール裏ジャーニー>

全世界のサッカースタジアムのゴール裏席には”ウルトラス”と呼ばれる熱狂的なサポーターが陣取る。発煙筒を炊き、コレオで芸術的ともいえるメッセージを発する彼らは、もちろんただのサッカー好きではない。様々な政治信条を持ち、スタジアムの中だけではなく社会に対しても大きな影響力も持ち、それゆえ政府や警察から弾圧を受ける。本書はウルトラスの発祥といわれるウルグアイから旅をはじめ、モダンサッカーの中心地である西欧、政治色が色濃い東欧、サッカー界では新興国である東南アジアやアメリカなどを巡り、ウルトラスの今を取材していく。

ウルトラスの文化は、南米にはじまり、ワールドカップによる世界的な観客の交流を経て、全世界に広がった。自分はJリーグ発足当初の某チームサポーターだったが、明確にイタリアスタイルのコールが取り入れられていた。そして、Jリーグの現代の主流スタイルはアルゼンチンスタイルである。このように、アルゼンチンのスタイルが西欧に輸入され、イングランドのスタイルがドイツに輸入され、セリアA全盛期にはイタリアスタイルに染まるといった交流の歴史がある。本書はそうしたゴール裏の歴史に触れていく。

そして本書のメインテーマとなるのがウルトラスと犯罪、政治との関係だ。ウルトラスの勢力が大きくなるにつれて、組織化し、クラブとの関係も密となり、チケット販売などに関わるうち、不正や犯罪に染まっていく。また、スタジアムは暴力を発散する地となり、サポーター同士の小競り合いというよりも映画のような”ファイト・クラブ”の様相を呈している国さえある。そうして暴力に慣れ親しんだウルトラスは、民族紛争にも関わっていく。ユーゴスラビア内戦などは一般的にも有名だが、近年の”アラブの春”にもウルトラスが大きな役割を果たした。ウルトラスたちは、一般的な市民が経験していない、デモや暴力に対する警察の弾圧・取り締まりを経験しており、それを躱す(かわす)術を心得ているのだ。ウルトラスは民主革命に大きな役割を果たしていたのだ。本書はそうしたウルトラスの歴史や近年の変化を、密着取材を通してしることが出来る一冊である。

初版2021/11  カンゼン/kindle版

2022.01.05

書評<転生令嬢と数奇な人生を1 辺境の花嫁>

ファルクラム王国の中流貴族キルステン家の令嬢に転生したカレン。前世日本人女性で30代で死亡したという記憶がある以外、とくにチート能力などもない、いわゆるモブ転生。転機は16歳で訪れた。14歳のときに訳あって平民となり、学校にも通っていたカレンのもとに、貴族としての縁談が舞い込んだのだ。婿の候補は2人。王家に連なるイケメン皇子と、辺境のおじいちゃん伯爵。はたしてカレンの選択は?転生者の数奇な運命が転がり始める。

電子書籍の読み放題でいくつかの「悪役令嬢転生モノ」を読んだが、本作は早川書房からの書籍化だけあって、珠玉の出来である。前記したように、主人公はいわゆるチート能力を持たない。これは男性向けの「なろう系」との顕著な違いで、”知識も分別もついたアラサー女性”のまま美少女に転生する著作は他にも多い。中世貴族の女性と比較して、”大人としての分別”こそが現代に生きる女性の最大のアドバンテージということだろう。魔法ではなく、知的好奇心、人としての奔放さ、行動力を武器に、魑魅魍魎が跋扈する貴族社会に立ち向かう。まさに数奇な人生物語である。ライトノベルを食わず嫌いの方にもお薦め。

初版2021/01    早川書房/kindle版

2022.01.04

書評<プロジェクト・ヘイル・メアリー>

ほんのわずかな時間で、太陽からの光が減少しつつあることが観測される。それは未知の物質に太陽が”感染”し、太陽からのエネルギーを”吸収”しているからだと判明。人類はその謎を解明し、破局を回避するために途方もない計画に着手する。それは太陽系の周辺で唯一、光が減退していない恒星系に人類を送り込み、謎を解明することだった。そして送り込まれた科学者は、その恒星系でファースト・コンタクトを果たす。果たして、彼は使命をまっとうできるのか?

主人公は「生命の発生に必ずしも水は必要ではない」という異端の説を唱えて科学界を追われ、教師をしている元科学者。物語は彼が宇宙船の中で目覚め、徐々にそこに至る経緯を思い出すところから始まる。彼は地球生命の危機に際し、未知の物質を分析するために強制的に召集されたのだ。結果として自分が唱えていた持論が覆されるところから、物語はジェットコースターのように展開する。カタストロフィを回避するSFかと思えば、行き先の恒星系で異星人と出会うファーストコンタクト系SFとなり、そこからは著者の過去作にも似るエンジニア系SFとなっていく。さまざまな要素がいっぱい詰まった本書、自分としては「科学者とエンジニアの友情SF」と捉える。いっけん不可能なことを可能にするにはどうしたらいいか?懸命に解決策を考え、手持ちの技術で装置を開発し、危機を回避する。それを生命としての形態や言語、持っているテクノロジーも違う異星人が実現していくのである。これほど痛快なことはない。2021年度ナンバーワンSFだ。 

初版2021/12   早川書房/kindle版

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