書評<エジプトの空の下>
気鋭のイスラム学者である飯島陽女史が、エジプトに滞在していたときの数々のエピソードをまとめたエッセイ集。遠く日本からは見えない、イスラム教の国、エジプトでの生活の実際や隣国との関係などを綴っていく。
ヘタすればIS(イスラム国)のカリフ制さえ支持し、アラブ各国の理不尽を欧米のせいにしたがる従来の日本のイスラム学者とは一線を引き、コーランに基づいたイスラム教徒の実際を指摘する著者。イスラム教では明確に男性と区別、差別される女性であり、母親であり、もちろん外国人でもある著者のエジプトでの生活の苦労を本書は伝えている。エジプトはアフリカにおいては大国ではあるが、インフラその他で日本には遠く及ばず、また宗教の違いはいかんともし難い価値観の違いがある。それでも著者はその性格ゆえか、大胆にエジプトで生活していた。かの地での経験が、今の著者の信条に大きく影響しているのは間違いない。
本エッセイが貴重なのは、著者が滞在していた期間にいわゆる”アラブの春”が起こったことであろう。エジプトでの民主革命とはいかなるものであったか、そしてその反動である軍事クーデターの後のエジプトの実相を本書は伝える。イスラム教が国教の国での”民主革命”とは何か、そもそも民主主義とは何か?言論の自由とは何か?考えさせられる一冊である。
初版2021/11 晶文社/kindle版
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