書評<’80sリアルロボットプラスチックモデル回顧録>
1980年7月、日本のプラモデルシーンならず子供たちのホビーを一変させるキット、「1/144RX-78ガンダム」が発売される。以後1984年に急速にそのブームが去るまで、シーンは異様な盛り上がりを続ける。次々と放映される新作ロボットアニメ、それに併せて過剰なまでに供給されるプラスチックモデル。新規参戦するおもちゃメーカーも現れるが、やがてブームは終わり、おもちゃメーカーには清算や倒産といった現実を突きつける。あのころ、起きたこととは何だったのか?こどもたちがキットを確保するために奔走するなか、おもちゃメーカーやメディアの中ではどのようなことが起こっていたのか。このブームを体験し、のちに「ガンダム・センチネル」など、メディア側の情報発信者となるあさのまさひこ氏が対談形式で語る”歴史書”。
本書にいわゆる資料的価値はない。現実に起こっていたことと、後に著者のあさのまさひこ氏が関係者へのインタビューで得た証言を中心に、ファーストガンダムを中心としたリアルロボットプラモブームとは何かをホスト役の五十嵐浩司と語り合う。これを書いている私を含めた現在50歳前後の「かつての男子」に強烈な”傷痕”を残したいわゆるガンプラブームは、現代のように洗練されたメディアミックスや商品企画によって起こったものではない。ゆえに送り手も受け取り手も手探りで、特異的な現象が次々と起きた。著者たちのブームの分析は的確であり、濃密な4年間の記録となっている。
しかし、である著者のあさのまさひこ氏が1965年生まれ。私は1972年生まれ。いわばただの”消費者”であった当時小学生の自分と、7つ年上ですでに批評家であり、クリエイターでもあった著者と共通体験があったとは言い難い。いわば”マニアのお兄さん”の話を聞いた感じとでも言おうか。さらにいえば、東京住みと地方住みの差は大きい。模型店など周辺から様々な周辺情報が入ってくる著者と、「文房具・スポーツ用品・模型その他地元中高生向けなんでも屋」でプラモの入荷を待っているだけの私とは体験の濃さはともかく、内容が違うのだ。そういう意味で、強烈な共通体験と歴史書を読む体験の中間的な読書艦が残る著書であった。
初版2022/01 竹書房/kindle版
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