書評<プロジェクト・ヘイル・メアリー>
ほんのわずかな時間で、太陽からの光が減少しつつあることが観測される。それは未知の物質に太陽が”感染”し、太陽からのエネルギーを”吸収”しているからだと判明。人類はその謎を解明し、破局を回避するために途方もない計画に着手する。それは太陽系の周辺で唯一、光が減退していない恒星系に人類を送り込み、謎を解明することだった。そして送り込まれた科学者は、その恒星系でファースト・コンタクトを果たす。果たして、彼は使命をまっとうできるのか?
主人公は「生命の発生に必ずしも水は必要ではない」という異端の説を唱えて科学界を追われ、教師をしている元科学者。物語は彼が宇宙船の中で目覚め、徐々にそこに至る経緯を思い出すところから始まる。彼は地球生命の危機に際し、未知の物質を分析するために強制的に召集されたのだ。結果として自分が唱えていた持論が覆されるところから、物語はジェットコースターのように展開する。カタストロフィを回避するSFかと思えば、行き先の恒星系で異星人と出会うファーストコンタクト系SFとなり、そこからは著者の過去作にも似るエンジニア系SFとなっていく。さまざまな要素がいっぱい詰まった本書、自分としては「科学者とエンジニアの友情SF」と捉える。いっけん不可能なことを可能にするにはどうしたらいいか?懸命に解決策を考え、手持ちの技術で装置を開発し、危機を回避する。それを生命としての形態や言語、持っているテクノロジーも違う異星人が実現していくのである。これほど痛快なことはない。2021年度ナンバーワンSFだ。
初版2021/12 早川書房/kindle版
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