書評<中国の航空エンジン開発史>
経済成長とともに、加速度的に装備の近代化を進める中国人民解放軍。空軍も例外ではなく、「数は多いが時代遅れのソ連機コピー機がすべて」というイメージを覆し、「国産の最新鋭機を揃える」空軍に生まれ変わりつつある。しかし、近代化した空軍の国産航空機が装備するタービンエンジンは今のところ輸入したロシア製エンジンもしくはロシア製エンジンをリバースエンジニアリングしたものである。本書は中国のタービンエンジンの開発・生産の歴史を辿り、ステルス戦闘機を装備しつつある現在でも、完全オリジナルのタービンエンジンを量産できない現状と、将来を予測する。
現状、戦闘機用のアフターバーナー付きターボファンエンジンをオリジナルで開発・生産できる国は片手に納まるのが現実である。テクノロジーが目覚ましく発展し、宇宙ステーションを軌道上に打ち上げようとする中国なら、大金を積んで開発を継続すれば技術はキャッチアップ出来るはずだ。中国共産党の幹部もそう考えているはずだ、しかし、現実はそうなっていない。中国のジェットエンジンの生産はソ連から輸入されたMig-15用のエンジンの整備から始まり、「中国のジェットエンジンの父」と言われる技術者まで輩出してきた。だが中国共産党の政策や文化大革命に翻弄され、技術発展は思うように進まなかった。ソ連あるいはロシア、西側諸国からの技術導入も、肝心のホットセクションは各国とも技術開示を拒んでいる。タービンエンジンの高圧・高温セクションは分解してパーツをコピーすればいいものではない。治金や空力など、基礎技術が肝心だ。さらに言えば、エンジンのパーツを生産する製作機械は日本とアメリカのいまだ独占市場である。本書はそうした歴史と現実、そしてこれまでに中国が自主開発したタービンエンジンのラインナップを網羅し、貴重な資料になるものである。
初版2022/04 並木書房/ソフトカバー
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