書評<ディエゴを探して>
サッカー界で「神様」と呼ばれる人物の一人、ディエゴ・マラドーナ。スポーツ面での成功と挫折、そして私生活の奔放さはよく知られるところである。だが、我々日本のサッカーファンは、彼が母国アルゼンチンでどのようにしてスーパースターに昇りつめたのか、その過程でどのようなエピソードがあったのか、知らない人がほとんどであろう。本書は1989年からアルゼンチンに住むジャーナリストである著者が、幼少期からディエゴを知る人たちへの取材を通して、ディエゴがどのような出自を持ち、どのような人生を辿ったのかを数々のエピソードともの明かしていく。
本書ではディエゴ・マラドーナのアルヘンティノス・ジュニオルス時代、ボカ・ジュニオールに移籍しスーパースターになるまでの7年間を主に取り上げる。取材対象は現在でいえばジュニアユースの年代のころに一緒にプレーした幼馴染みや、マラドーナを見つけ出した人物、パーソナルトレーナーまで広く及ぶ。ディエゴは貧民街に生まれながらも仲間を思いやる少年に育ち、その性根は生涯かわることはなかった。現在のクラックたちにはない、人間としての暖かい資質。そしてその資質と、スーパースターとして一挙手一投足を追われる日々の板挟みとなって苦しむ日々。ディエゴは、サッカーのプレーや結果だけで”神様”になったわけではないのだ。アルゼンチンにおいて、ディエゴが象徴しているものは何か、深い洞察を感じさせる一冊であると同時に、現代では不出の人物であり、ディエゴの代わりになる人物は二度と現れないであろうと確信させる一冊である。
初版2021/07 イースト・プレス/kindle版
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