書評<バルサ・コンプレックス “ドリームチーム”&”FCメッシ”までの栄光と凋落>
華やかなヨーロッパのサッカー界の中でも、屈指の人気と注目度を誇るバルセロナ。そして地元スペインのカタルーニャ州においては「クラブ以上の存在」といわれ、カタルーニャの社会に深く根ざしている。それはクライフというサッカーを変えた人物の一人が所属することで始まった。サッカー関係の重厚なノンフィクション作家として知られる著者が、長年に渡るバルセロナの取材をまとめ、バルセロナというクラブの発展と凋落の歴史を辿る。
バルセロナは、世界でもその動向が注目されるチームであり、チームの歴史を扱った本も多数ある。本書の特徴は、著者が20年以上に渡ってバルセロナのクラブハウスに出入りし、クラブの職員から会長まで、様々な階層の人たちをインタビューし、バルセロナというクラブの複雑さを読み解いていることであろう。さら著者はクライフへの単独インタビューの機会を「この日のためにサッカージャーナリストになったといっても過言ではない」と記すほどクライフへの思いが強くありながらも、クライフについて批判すべきところは批判するスタンスを取っており、その距離感のバランスが非常に優れている。ゆえにバルセロナの歴代会長に話を聞けるインサイダーでありながら、クラブのマイナスの側面を客観視し、チームの変質を描き出すことに成功している。さら本書ではサッカーのグラウンドやクラブハウスを超えて、バルセロナという街の変質、あるいはバルセロナと他のヨーロッパの国々(特にオランダ)との関係にも触れている。そうしなければ、バルセロナとクライフの愛憎半ばする関係を理解できないのだ。本書はクライフ以後のカタルーニャの歴史書でもある。
初版2022/04 カンゼン/kindle版
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