書評<冷蔵と人間の歴史>
人類が文明を興し、調理や醸造を始めたとほぼ同時に、食物を冷蔵しようとする行為は始まる。初期は保存のためというより、王族が飲む飲料を冷やすという、嗜好性の強いものであった。地上と地下の熱量の差や気化熱など自然の物理現象を利用した冷蔵庫から、現在の我々の食生活を支える大規模な冷凍庫を搭載した船舶まで、本書は冷蔵と人間の歴史を辿る。
本書を読むと、まず驚くのが人類が冷蔵という行為を始める早さと、我々が現在使用しているような冷蔵庫の登場のギャップである。先に述べたように、歴史上、冷たい飲料は貴族しか手が出せない贅沢品であったものが、寒冷地から大規模な氷の輸送を経て、庶民が家庭用冷蔵庫を利用するに至る道は非常に長い。「物体を冷やす」という経験的な利用から、熱の移動という科学への発展。あるいは世界的な交通網の発達。人類社会の科学の発展とともに、冷蔵という行為は広まったことがよく理解できる。そして近代においては、大規模な寒冷地からの氷の輸送をはじめとして、冷蔵がギャンブル的な商売であったことも興味深い。本書は冷蔵という行為から見える人類史の歴史書ともいえるだろう。
初版2021/09 築地書館/ハードカバー
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