書評<ザ・コーポレーション>
フィデル・カストロによる社会主義革命時、前政権に関わる人物をはじめとして多くの人間がキューバを脱出し、アメリカに渡った。そして彼らはときのケネディ政権下のCIAによるキューバ侵攻に参加することになる。だが後に”ピッグス湾事件”と呼ばれるキューバ侵攻は失敗。彼らはキューバ当局に拘束され、アメリカに追放される。軍隊と捕虜になるいう経験を経て、亡命キューバ人たちは絆を固くし、またCIAと関わったことで、アメリカ政府関係者との繋がりも継続されることとなる。アメリカで自由の身になった亡命キューバ人の一部たちはボリータ(数当て賭博)を生業とするマフィアとなり、ニューヨークとフロリダの暗黒街を跋扈することになる。本書は一人の”ゴッドファーザー”を中心に、キューバ・マフィアの成立と拡大、そして衰退を描くノンフィクションである。
マフィアの栄枯盛衰を描いたノンフィクションはあまたあるが、本書を特別なものとしているのは、「ザ・コーポレーション」と呼ばれることにあるキューバ・マフィアの特殊性にある。彼らはピッグス湾事件の辛酸を舐め、「いつか祖国をカストロから取り戻す」という”ロマン”を抱いているという共通点から団結力も強く、勢力はまたたく間に拡大した。さらにCIAはじめ政府との繋がりを持つ人物も多く、ケネディ兄弟の暗殺事件や、後の「イラン・コントラ事件」にも関わることとなる。ロマンや政治性を抱えた犯罪組織、魅力的な人物。生業である数当て賭博も動く金額は大きいが、庶民の楽しみを支えるものでもある。だが、それは暴力によって担保されたものであった。そして、麻薬犯罪に手を伸ばし始めたときから、ロマンは失われ、金銭と暴力にひたすら捉われた犯罪組織に変容していく。キューバの歴史、アメリカの組織犯罪の歴史、CIAの南米での暗躍、犯罪を取り締まる側の警察組織の汚職と苦悩。様々な物語が重なり合った重厚なノンフィクションである。
初版2022/02 早川書房/ハードカバー
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