書評<ベリングキャット ――デジタルハンター、国家の嘘を暴く>
GoogleMapが世界を覆い、SNSに世界の事件、事故の画像が瞬時に上がっていく昨今、注目を集めているのがOSINT(OpensouseInteligence)である。真偽が簡単には確認できない紛争や内戦、テロの情報を、GoogleMapやSNSに上げられる画像などを吟味し、事実と画像の一致を見出し、真実を公開し、一般に周知させる。本書はそうした活動で注目されるようになったOSINTチーム、べリングキャットの創始者が、自らべリングキャット創設の短い歴史を明らかにしていく。
本書は何者でもなかった(それどころか無職に近い立場)著者が、世界中の報道番組や情報組織から注目されるOSINTチームを立ち上げた経緯やチームの活動を明らかにする。本書をで印象的なのは、OSINTはとにかく「時間と根性」が必要なことだ。広大なネットから、目的の画像や情報を拾い上げるのは簡単なことではない。いまどきは政府が主導するフェイクニュース拡散もある。それらから意味ある情報を事実と確認するには、膨大な時間が必要だ。それに、ピンボケの画像に写る兵器や車両を確認するには、専門的な知識が必要でもある。それらを確認するためには、クローズドで、なおかつ信頼できるネットワークを作り上げなければならない。決して容易なことではないのだ。
一方、本書ではOSINTの限界も感じさせる。べリングキャットは情報探索の奥底に潜るにつれ、政府組織内などの匿名の情報源に接触するようになった。やはり情報収集にはHUMINT(対人情報)も必要なのだ。ネットだけでは世界は完結しない。本書はそうしたことも感じさせる。
初版2022/03 筑摩書房/ソフトカバー
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