書評<豪腕 使い捨てされる15億ドルの商品>

日米問わず、プロ野球の投手の多くが肘の内側側副靭帯(UCL)断裂という故障と、トミー・ジョン手術というUCL再建手術を体験する。基本的には球数の投げ過ぎが原因だと考えられるが、厳密にはまだ故障の理由は解明されていないし、予防策も確立していない。どんな”剛腕投手”でも容赦なく襲われるUCL断裂とは、どのようなケガなのか?UCLを再建し、多くの投手を救ったトミー・ジョン手術とは、どのようなものなのか?2人の現役投手の故障とリハビリをメインに、医師や育成年代の野球の実態、さらには投手の酷使で知られる日本の高校野球の現場を取材することにより、現在のプロ野球投手が抱える問題を明らかにする。

人類が地球上で今の地位を築いたのは、”投げる”能力を手に入れたことが一因といわれる。投石、投槍で獲物を狩ってきた人類だが、上手投げで短時間に100球も投げられるほど、筋力も靱帯も強くない。その結果がUCL断裂だ。
基本的には投げ過ぎが原因のUCL断裂なのに、アメリカではショーケースと呼ばれる年代別野球トーナメントが隆盛し、10代でUCL断裂と手術を経験する選手が増加している。日本の高校野球は言わずもがなだ。本書はこうしたプロ野球を巡る過酷な実態を明らかにする。
そしてそのUCL断裂を再建するトミー・ジョン手術の実態も本書は明らかにする。投手たちには救世主的存在だが、その手術からの復帰は確実ではない。1年を要するリハビリも、長く過酷だ。本書はそのほかの予防策や投球理論も紹介されているが、いずれも決定的でなない。
プロならば、大金を手にする代償として、UCL断裂とトミー・ジョン手術という賭けも許されるのかもしれない。問題は10代の選手たちだ。その後の日常生活すら壊すかも知れない肘の故障。高校野球の見方が確実に変わる一冊である。


初版2017/02 ハーパーコリンズ・ジャパン/kindle版

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書評<軽トラの本>

軽自動車規格のトラック、通称”軽トラ”は日本の農業、漁業を支えるツールであり、また日本の軽自動車規格の中で、効率を極めた自動車である。商品性を高めるために豪華に着飾った最近の乗用車に比べ、道具としての機能を追求した軽トラにこそ、日本車ならではの特徴がある。本書はスズキ、ダイハツ、ホンダの各メーカーの開発担当者にインタビューし、さらに異彩を放ちながらも生産終了となったサンバーにも光を当て、軽トラとは何かを明かしていく。

自動車評論家の中でも、技術系に沢村慎太朗氏のモーターファン・イラストレイテッドの連載をまとめたもの。もちろん、ワゴンRと軽トラの比較など、書き下ろし記事もある。
先の説明にも書いたように、日本の軽トラは、日本車の中でも特殊で、孤高の自動車である。過積載当たり前、それでいて普段はジジババの足。畑や塩水環境で酷使されるが、それでいて走行距離は年間で日本平均の6000㎞はいかない。各メーカーはユーザーに真摯に向き合い、要求を満たすべく奮闘する。極めてドメスティックな日本専用車についてまとめた本なのに、日本のメーカーが世界に乗り出せたわけ、戻るべき場所を示唆しているように思う。クルマに多少なりとも興味がある方は必読。
願わくば、連載時そのままの大型本で再出版して欲しい。

初版2017/05 三栄書房/ソフトカバー

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書評<愛しのブロントサウルス―最新科学で生まれ変わる恐竜たち>

子供のころに恐竜が大好きだった中年のおじさんたちは、恐竜に身体、生態に関する調査研究が急速に進み、あのころ憧れたブロントサウルスがもういないことをご存知だろうか?本書は、著者が子供のころに博物館を訪れ、夢中になって見ていた恐竜たちと、最新の学説による恐竜たちの姿、生態がいかに違うかを紹介していく。

まず最初に断っておくと、訳本である本書の原著は2013年発行。4年の時間は長く、再び大型の雷竜の解釈が変わり、ブロントサウルスは復活している。いかに恐竜研究の速度が速いか、逆に仮説・定説がいかに頼りにならないかがよく分かる。
とはいっても、本書は恐竜たちの分類、身体、生態の”ほぼ”最新”の研究成果を包括的にうまく紹介している。もはや恐竜は絶滅しておらず鳥として生き延びており、羽毛がある恐竜たちの姿は定番となっている。恐竜は大きく分類して竜盤目と鳥盤目に分かれるが、竜盤目の恐竜が鳥に進化している皮肉な事実から本書は始まるが、そのこと一つとってもあまり知られない研究結果だ。断片的に新聞や科学雑誌に掲載されている恐竜たちの最新の学説を知るのに最適な一冊だ。

初版2015/07 白揚社/ハードカバー

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書評<徹底検証 日本の右傾化>

第2次安倍政権発足のころからか、にわかに「日本社会の右傾化」が一部論者から叫ばれるようになった。東アジアの近隣へのヘイト、反戦運動に代表される左翼的価値観の衰退、保守的な価値観の復活など、確かに様々な変化があることは確かだ。では、それが”社会の右傾化”といえるのか。宗教、家族、LGBTなど価値観が分かれる分野の専門家たちが分析する。

自分自身はネット上では「ネトウヨ的な意見」を口にしていることを自覚している。なので、「日本の右傾化」なるものは「無防備都市宣言」といった非現実的な反戦主義に対する反動だと思っている。だが、本書では多くのものが学べる。我々がフツーに生きてニュースに接している限りは浮かび上がってこない、宗教的、保守的な価値観の勢力だ。本書でたびたび登場する「日本会議」がその代表であろう。いわゆるリベラル的な価値観をよしとしない人々は確かに存在し、政治に影響をおよぼそうとしているのだ。それらの知識を得られるだけでも、本書には価値があろう。
世界的に「リベラル、グローバル化」といった価値観に疑問が呈されている中で、今はまだ、さほど力を持たないそれらの”右翼的勢力”が政治に影響を及ぼしていくのか?変わる世界の中で、日本も”戦後ではいられないのである。

初版2017/03 筑摩書房/ソフトカバー

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書評<ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち>

2016年のトランプ大統領の当選により、オハイオ州やその周辺のいわゆる”ラストベルト”(錆ついた工業地帯)と呼ばれる地域の白人たちが注目されることとなった。東海岸や西海岸の都市圏の発展から取り残され、学も職もなく、底辺を生きざるをえない、古くからのアメリカ人たち。彼らのおかれた環境とはどのようなものなのか?現在は故郷を離れていわゆるエリート層に属することになった著者がその経歴と家族の物語を語ることにより、繁栄に取り残され、エリートや移民を憎む彼らの実態を明かしていく。

トランプ大統領の選挙戦の勝利が「貧困白人たちの怒り」に押されたものであったことは、マスコミなどでもずいぶんと放映された。本書はその手がかりとなるものだが、アメリカという国のかたちを改めて考えさせられる。
「分断したアメリカ社会」といわれる昨今だが、そもそも、いわゆる鉄鋼など旧来の重工業が衰退する以前も、アメリカは分断していた。家族、故郷との絆が深く、大学への進学あるいは故郷を離れて働くことが非現実的な人たち。彼らが中間層でいられたのは、工業地帯があったからだ。世界的な競争の中で重工業が衰退すると同時に、彼らは他の生き方も分からずに、貧困層に落ちていく。失業こそが、社会で一番の害悪であると理解できる。
著者は、白人たちの生き方自体も指摘する。教育がないのではない。時間を守るといった基本的な約束事を守れない、離婚と結婚を繰り返す親たちとそれを見て育つ子供たち。移民であれ誰であれ「誰かのせいにすべきではない」と著者は唱える。
アメリカの田舎の価値観を知ることが出来ると同時に、彼らの価値観の中から、教訓をえられる”エレジー”である。

初版2017/03 光文社/ソフトカバー

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書評<錆と人間 (ビール缶から戦艦まで)>

人間が鉄を道具として久しいが、それは錆との戦いの歴史でもあった。テクノロジーが発展した今でもそれは変わらない。建物や橋、パイプラインといったインフラから缶詰まで、多くの人間が錆との戦いを職業としている。本書は腐食と戦う人間を扱ったノンフィクションである。

本書は腐食し、その運命が怪しくなったニューヨークの女神像の改修のエピソードからはじまる。冶金技術や合金技術、塗装技術が発達した近代・現代でも、エンジニアたちは錆と戦っている。我々の身近なものでいえば、缶詰や缶飲料がそうだ。食品や飲料に含まれる酸は、鉄を侵していく。ゆえに、鉄と食品を遮断するコーティング技術は缶メーカーの秘中の秘だ。発がん物質が含まれているともいうが、真実は定かではない。
規模の大きな事例だと、最終章のパイプラインのメンテナンスは圧巻だ。数百㎞におよぶステンレスのパイプラインを維持するテクノロジーの数々。人類が鉄を使うようになっておそらく数千年は経つはずだが、我々はまだそれを使いこなせていないのだ。
錆との戦いは人類とテクノロジーの関係を象徴していると感じさせる一冊だ。


初版2016/09 築地書館/ハードカバー

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書評<ドラッグと分断社会アメリカ 神経科学者が語る「依存」の構造>

アメリカにおけるドラッグに関する犯罪は深刻であるが、とうのアメリカ人の多くが、ドラッグとその犯罪発生のメカニズムを誤解している。ゆえに、効果的かつ根本的な解決策を政策として実行していない。著者は自分の半生を赤裸々に語ることで、そのことを明かしていく。

本書はドラッグに関する社会学や犯罪学の本というよりも、黒人の神経学者の具体的体験を軸に、ドラッグ依存の問題と誤解を分析するものである。著者はフロリダの黒人街の生まれで、多くの姉妹を持ち、複雑な人間関係のもとで育っている。著者は幸運にも黒人街から遠く離れ、大学教授として成功している。だが、多くの親類・友人たちは貧しい黒人街にとどまったままだ。彼は地元とは分断してしまった。ゆえに、ドラッグと社会構造の歪な関係を指摘できる立場にある。
神経学者である彼は、動物実験や人間の被験者を通して、ドラッグ(この場合はコカインクラック)がさほどの依存性がないことを指摘する。実際問題として、コカイン体験者のほとんどは依存症には至らない。ではなぜ、人はドラッグを買うのか?それは貧困ゆえに未来のない人生ゆえであり、その不安からドラッグに手を出すし、その取引額の大きさから犯罪に手を染める。そこに人種問題が絡む。ドラッグ経験者は人種を問わないが、逮捕者は圧倒的に黒人が多い。警察はてっとり早くストリートの黒人をしょっぴくのだ。多くの黒人少年たちはそれを繰り返すうち、本物の犯罪者になる。例えばメキシコからのコカイン密輸ルートが断てたとしても、貧困、人種といった社会的な問題が解決しなければ、それに代わる薬物が出てくるだけである。
著者が神経学者でありながら、案外とそれに関する記述は少ない。本書はあくまで著者本人の自伝と、日本人があまり知ることのない黒人社会の実際を知ることが出来る本と見なすべきであろう。


初版2017/01 早川書房/ハードカバー

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書評<毒々生物の奇妙な進化>

世界には哺乳類、爬虫類、水棲生物、昆虫問わず、多くの毒を持つ生物がいる。人間をも瞬時に死に至らしめる毒を持つ生物も多く、そのことが逆に多くの生物学者を引きつけている。本書は数少ない毒を持つ哺乳類であるカモノハシをはじめ、多くの毒の持つ生物を取り上げ、奇妙とも必然ともいえる進化の謎にせまっていく。

我々はヘビあるいはフグなど多くの毒を持った生物を知っているが、意外とその毒が具体的に何に作用し、激痛や死をもたらすのか、意外と理解していない。本書は著者の多くの体験を通して、それら毒を持つ生物の実態にせまっている。
生物の毒とは、主に神経毒と血液毒に分かれる。とはいえ、多くの生物が他者に”射ち込む”のはそのカクテルだ。それゆえ解毒はやっかいである。それら恐ろしい生物は、逆にいえば体内で毒を生成するため、多くのエネルギーを使っている。果たして、それは生きていくうえで収支があっているのか?あまりシロウトが思いつくことのない視点で、毒をもつ生物を解説する。
また、定説を覆すエピソードもある。コモドオオトカゲは、今でもテレビなどでは「口の中の雑菌が咬まれた生物を腐敗させる」と解説されることもあるが、実際にはオオトカゲは毒腺を持っているのだ。
一方で、まだ生物の毒には分からないことも多い。それゆえ、研究は続いているし、謎を解けば「毒と薬は紙一重」という言葉にもあるとおり、人類を救う薬の原料となることもあるのである。生物の謎の1つを探りたい方におススメだ。
 
初版2016/02 文芸春秋/ハードカバー

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空自那覇基地「美ら島エアーフェスタ2016」に行ってきた その②「基地祭2日目編」

「美ら島エアーフェスタ2016」、2日目の午前はせっかく沖縄に来たので、観光の代表格、首里城公園にまず移動。
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建物の歴史などの諸々よりも、回りの観光客の若さに驚きました。修学旅行の団体客はじめ、外国の方と思われる方も若い。老人のツアーばっかりの他の観光地と一線をかしています。こと観光については、沖縄の未来は明るい。
そしてまた、ゆいレールで基地へ移動。
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基地防空用の新短SAMやチヌークの放水用バケツなど、珍しい装備展示を眺めつつ、展示フライトを待ちます。
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小柄な女性整備員さん、札幌の某モデラーさんに似てるなあ、とか思いながら飛び立っていく自衛隊機を眺めていると、展示飛行開始。
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展示飛行とはいっても、民空の離着陸の間に航過飛行を行う感じ。せめてもう少し、近くを飛んでくれればなあ。

というわけで、ブルーは帰りの飛行機の関係でオミット。基地の外周を歩いて那覇空港のターミナルへ向かい、しばしの休憩の後にフライト。まことに充実した2日でありました。また行きたいなあ、沖縄。

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書評<誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち>

音楽を巡る環境、意識はここ20年で大きく変わった。音楽の販売方法の中心ははCD販売からデータのダウンロード販売に移行し、しかも今の若い人たちは違法ダウンロードにさして抵抗もない。この状況はどうして生まれたのか?大衆が求める音楽を的確にかぎ分けるメジャーレーベルのドン、音楽を圧縮する技術を開発した科学技術者、CD工場から未発売のCDを窃盗する男。3人の人生を通して、音楽産業の急速な変化を描き出す。

本書はさほど固い歴史書などでない。むしろ、3人の男たちの冒険の物語だろう。とにかく大衆が求める音楽を追求していった結果として、自らを追い出したレーベルを買収するほどに成長した会社を率いるプロデューサーの、金を生み出す才覚。ただ優れた技術を開発するだけでは世界規格になることは出来ず、政治を学んでいく技術者。お金というよりも、むしろネットのヒーローとなるために窃盗を続ける男。3人の熱が、CDアルバム販売という主流を切り崩していく様子は、どう考えてもワクワクする冒険、強烈な熱を持っている。画期的な技術が違法行為を呼び、違法行為が巨額を貪るメジャーレーベルを潰していく。音楽を生業にしている方々には申し訳ないが、痛快ですらあるのだ。抜群に面白い一冊だ。

初版2016/09 早川書房/Kindle版

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