書評<戦争の日本中世史―「下剋上」は本当にあったのか―>

手柄より死を恐れ、領土の安堵を求めた武士たち。悪人ばかりではなかった「悪党」。戦争大好きな朝廷の公家たち。戦時立法だった一揆契状など、南北朝以後の本当の日本の戦争の姿を、固定された歴史観から解放し問い直す。

太平洋戦争以後の近代史以後の知識しかないので、大河ドラマ視聴を中心に日本の中世を勉強し直しているが(笑)、その中でも呉座氏の著書は面白く、かつ信頼できると思っている。本書は著者の歴史解説書の中でも、南北朝以後の戦争の実態を一次資料を見直しながら検討し直したものである。
著者がたびたび指摘するのは、下剋上に代表される、2次大戦後の日本史研究の固定化された歴史観だ。社会主義、共産主義の理想が歴史の解釈に入り込んできた時代ゆえ、「ゲリラ戦で荘園の武士を打ち倒す」「戦争におたおたする公家さん」といった歴史解釈がなされたというのだ。著者は複数の資料を突き合わせ、その資料が書かれた年代と背景を検討し直すという作業のうえで、中世の戦争の実態を描き出すことに成功している。武士は悩み、公家は武力を行使し、僧侶も土地を支配する。教科書で習った浅い知識しかない自分には、目からウロコが落ちる解釈である。
それには著者の個性も必要だったと思われる。「野戦でゲリラが正規軍にかなうわけない」といった近代の戦争の知識も本書には必要だったのだと思う。戦争を忌避する学者に、500年以上前とはいえ歴史は語れない。ミリオタにとっても、抜群に面白い本だ。


初版2014/01 新潮社/新潮新書(kindle版)

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書評<激震! セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018 USA語録>

アメリカ在住の映画評論家である著者による、アメリカの現在を綴るコラム集。今回はトランプ大統領の”ご乱心”っと"me too"と呼ばれるセクハラ騒動がメイン。断片的に伝えられる"me too"運動の実態をユーモアを交えて綴っていく。

ハリウッド作の映画評論家で、リベラルな政治姿勢で知られる著者が、彼にも馴染みのあるハリウッド関係者のスキャンダルをどう斬るのか?それに興味があったのだが、結論からいうと事実の羅列に過ぎなくて、著者にしては毒が足りない気がするのだ。日本の古く時代遅れな社会を見下し、アメリカのリベラル勢力を上げるのが著者の基本姿勢だが、そのリベラルの象徴の一つであるハリウッドがヘタしたら日本社会よりヒドイ男尊女卑だったのだから、まあ筆も鈍るというものなのだろう。保守からリベラルへ移行していったはずのアメリカが、その内実に対立を抱えたまま、息が詰まるようなポリティカルコレクトネスが支配する社会と化している現実。そのことを本書も象徴しているのかも知れない。

初版2018/03 文藝春秋/kindle版

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書評<炎と怒り トランプ政権の内幕>

アメリカ大手メディアの予測を覆して選挙に勝利し、アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプ。政治家としての経験がないトランプ大統領とその側近、ワシントンの常識を覆すことこそが自分の仕事だと承知しているトランプ大統領の発言と行動が、世界を混沌とさせている。その意思決定の現場であるホワイトハウスの中はどのような状態に陥っているのか?内部告発を巧みに組み立て、トランプ大統領就任後1年を暴いた問題作。

本書により、トランプ大統領は辞任に追い込まれるといわれたものである。それゆえ、早川書房としても異例の速攻翻訳・発売であったはずなのに、トランプ大統領の行動はもっと早い。本書に登場するトランプ大統領選出の官僚たちはほとんどいなくなったと言っても過言ではないし、外交や貿易政策もガンガンと新しい手を打ってくるので、本書に書かれていることなど、もはや過去の一場面に過ぎない。
一応本書に触れておくと、メインはバノン氏をはじめとしてオルタナティブ右派勢力と、ジャーヴィンカと呼ばれるトランプ大統領の娘と娘婿夫婦の派閥争いである。とにかく歴代の民主党選出大統領が打ち出した政策やグローバリズムの否定に快感を覚えるバノンと、割と穏健で常識的な方向に持っていきたいイヴァンカ夫婦の間で政策が翻弄される様は滑稽ですらある。4月中旬現在でバノンは退場したが、今度は強硬な右派、ボルトン氏が安全保障担当補佐官に就任し、またもや外交が見通せなくなった。世界の首脳は、少なくとももう3年はトランプ大統領に振り回される日々が続くだろう。


初版2018/02 早川書房/kindle版

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書評<ダ・フォース>

ニューヨークのマンハッタン・ノースと呼ばれる街の犯罪、すなわち麻薬、殺人、窃盗などを統合的に取り締まる特捜部、”ダ・フォース”。犯罪多発地域で、タフで優秀な警官たちを率いるデニー・マローンはこの街を統べる刑事の王であるが、悪徳警官でもあった。危ない橋をうまく渡ってきたはずのマローンは、ニューヨーク市当局とFBIの罠に嵌まり、破滅の道を歩み始める。

街の麻薬ディーラーやマフィアたちを相手にリベートを受け取るという悪徳と、「自分の街を守る」という使命感と正義の両立。危ういバランスを自らの中に保ちながら、犯罪を取り締まるマローンという存在を通してみる、ニューヨークのダウンタウン。麻薬の蔓延や人種差別などをリアルに描きながら、警官は、街とは何かを問う警官と犯罪の物語は読者を圧倒する。そして、華やかな世界有数の都市であるニューヨークの裏の顔の圧倒的なリアル。現場の警察と市当局の乖離、市当局と連邦政府の対立など権力を争うエリートたちの薄汚さに比べれば、マローンは確かに街の王である。ページをめくる手が止まらない物語とは、この物語のことをいうのであろう。


初版2018/03 ハーパーコリンズ・ジャパン/Kindle版

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書評<陰謀の日本中世史>

日本中世史、幕府と朝廷の支配が交差し、様々な地方の武士がのし上がってきた時代には、様々な陰謀論が存在する。代表的なものが「本能寺の変」であろう。”黒幕”の存在がいろいろな論者から唱えられるが、果たして真実はどこにあるのか?分厚い日本中世史の知識を持つ著者が、日本中世史の中の陰謀論を検証していく。

「陰謀論」はいつの時代にも、どこにでもある。アメリカなど、月着陸やケネディ大統領暗殺、あるいは9.11同時多発テロの”真実”は別のところにあると信じる人が人口の半数にものぼるそうだ。それは日本も同じで、歴史の中には陰謀論が溢れている。日本史は戦後の定説が新資料の発見によって覆されているので、余計に歴史解釈が分かれるのかも知れない。
本書で特徴的なのは、古参の学者の唱える陰謀から、突飛で新奇な新説まで、基礎資料を読み解きながら的確に反論していることであろう。当時から現在に伝わっている書物の傾向を丁寧に読み解いて、複数の資料をあたり論説を組み立てる著者の唱える”反陰謀論”は、非常に説得力がある。また、戦後のマルクス主義や唯物論に捕らわれた戦後の日本中世史解釈を批判する著者ならではの解説も新鮮だ。
ワタシのような日本史勉強初心者に、日本史の勉強の仕方を教えてくれているような本であった。

初版/2018/03 角川書店/角川新書

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書評<イラストでまなぶ! 戦闘外傷救護 -COMBAT FIRST AID->

イラスト、あるいは女性モデルで戦闘外傷救護の基礎を学ぶことが出来るイラスト本である。表紙からは想像できないが、銃創や創傷への緊急対応マニュアルになるべきものである。

日本は救急救命というと、心臓疾患への対応が多く、大量出血への対応など、一般人の知識は皆無であるといっていい。しかし、70年代の連続企業爆破テロ、90年代のオウム真理教のサリン事件、近年では秋葉原歩行者天国へのトラック突入や相模原障害者施設大量殺傷事件など、日本は被テロの先進国であり、またどこでテロが起きるか分からない。そうした中で、大量出血に対する緊急対応など、本書には学ぶことが多い。ただでさえ、日本の消防・救急救命の装備はアメリカなど先進国に劣っているといわれている。我々一般人も、意識を変えることを示唆されている一冊である。

初版2018/03 ホビージャパン/ソフトカバー

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書評<ミリオタJK妹! 異世界の戦争に巻き込まれた兄妹は軍事知識チートで無双します>

兄妹でミリタリー系ラノベ作家である宗也とみぐ。兄妹は、突然滅びかけた異世界の王国に召喚される。その世界で人類は最弱の存在であり、現実に竜人の軍団に最後の都市を包囲され、絶滅寸前であった。軍事と歴史の知識が豊富な宗也は王女に仕える参謀として、肉体派のみぐはわずかに持ち込んだ現代のツールを駆使し、圧倒的に不利な状況を打開しようとする。

「ミリオタが異世界に召喚されたら」系のラノベは多くあるが、多くのミリオタが抱える矛盾を昇化させてくれる物語だ。召喚された王国は異世界の全般状況から現実を掴めておらず、古いイデオロギーから自らを滅びの道に招いている状態。「戦争はキライだけど、戦争に関する知識を愛している」ミリオタが存分に活躍できる舞台が用意されているのだ。もちろん、不利な状況に知識だけで勝てるわけではないが、そこはみぐがいわば「強硬偵察部隊」として兄を助ける。コミカルな場面ももちろん満載で、読み応え充分のラノベである。


初版2018/02 SBクリエイティブ/GA文庫

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書評<イスラム教の論理>

神の啓示を集めた聖典であるコーランに依って生きるムスリムの論理は、欧米を中心とするキリスト教社会や民主主義を主体とする近代社会とは相いれない。ジハード、カリフ制、異教徒あるいは同じイスラム教徒へのテロ、女性に関する倫理観など、西洋社会に生きる我々には理解しにくいイスラム教の論理を、コーランから説明を試みる。

「イスラム国が発信する論理は、コーランから見ると肯定せざるをえない」。これを書いているだけでも、非常に率直なイスラム教の解説であると思う。”イスラム教は本来、平和な宗教である”などというおためごかしを否定することからでしか、昨今のテロの頻発は説明できない。イスラム教に関して、近代民主主義とは相いれないが非常に納得のいく論理が展開され、ポリティカルコレクトネスによって分断される昨今の欧米の状況を考えれば、西洋社会が標榜する民主主義の傲慢すら感じてしまうのだ。欧米の首脳たちが受け入れようとする「イスラム教徒」は、彼らの価値観の枠内に収まることを余儀なくされているだけであり、そこから離れた”本来の”イスラム教徒と衝突が起こってしまうのは、当然の帰結といえる。
インターネットの発達により、これまで民主主義や各国の制定法に縛られていたイスラム教徒がコーランの本来的な解釈に触れることが出来るようになった。これが近年のイスラム教の論理を厳密に守ろうとする諸現象の根源であり、イスラム教と西洋社会の価値観の摩擦は増加するばかりであろうと本書はそう警告する。約20年前、「文明の衝突」という理論が流行したが、本当の文明の衝突はこれからである。

初版2018/02 新潮社/新潮新書(kindle版)

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書評<15時17分、パリ行き>

2015年8月21日、15時17分にアムステルダム駅を出発した高速列車はパリに向かっていた。その乗客の中に、気のおけない幼なじみ3人のアメリカ人の若者グループが乗り合わせていた。その車内に、イスラム過激派の男が重武装して現われた。大きな犠牲が発生するはずだったテロは、乗り合わせたアメリカ人の勇気ある行動によって防がれる。そこにはどんな物語があったのか?実際に起こった事件を詳細に綴ったノンフィクション。

軍属ではあるものの、決してエリートではなかった2人と、カリフォルニア在住の普通の若者。3人はいかに大規模テロを未然に防いだのか?主人公たちの視点を中心に、過去と現在を交錯させていく。
この「英雄物語」のテーマの中心は”導かれる運命”といったところだろうか。”ヨーロッパ周遊旅行”を楽しんでいた主人公一行は、ヨーロッパで出会った女の子たちから「パリは感じ悪い。行かない方がいい」と言われていたのにも関わらず、高速鉄道に乗車した。乗車前に身障者を介助したゆえに、最初に乗ろうとした車両に乗らなかった。そしてテロリストともみ合いになったときに、カラシニコフが起こしたジャム。偶然が、勇気を奮い起こした神が若者たちを助けたのか?英雄譚というよりは、運命を考えさせられるノンフィクションである。


初版2018/02 早川書房/ハヤカワ文庫NF

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書評<極夜行>


探検家として、著述家として知られる著者は、数年前からグリーンランドのシオラパルクという世界最北の小さな村に通い、交流しながら新たな冒険を準備していた。太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない、極夜と呼ばれる長い漆黒の夜の中、グリーンランドを横断しようというのである。
著者のポリシーによりGPSを使わずに、厳しい冬を踏破する冒険。ゆえに六分儀の取り扱い方の学習や、食糧デポの準備など、万全な準備を数年に渡りしていたはずだったが、自然と運命はそんなに甘くなかった。アクシデントだらけの冒険行から著者は生きて帰れるのか?とにかくトラブル続きのノンフィクション。

著者としては”何もかも予定通りいかない”、そんな冒険行を綴ったノンフィクションである。日本の日常から抜け出して非日常に飛び込むとはいえ、多くの危険が潜む極夜行に著者は多くの準備時間を費やしていた。なのに、天測機器を出発早々になくし、季節外れのブリザードに巻き込まれ、備蓄していた食料を奪われ…トラブルはあげればキリがない。著者はそんな状況におかれてもたえず思考し、危機を乗り越える。むしろトラブルのおかげで、読者である我々にとっては極夜におかれた人間の精神と肉体の状況を疑似体験出来るのかも知れない。
山あり谷ありそのもの、何度も読む価値のあるノンフィクションである。


初版/2018/02 文藝春秋/ハードカバー

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