書評<アメリカ超能力研究の真実――国家機密プログラムの全貌>

オカルトの代表格の1つ、超能力。第2次大戦後、人間の能力を拡張しようとするブームが訪れ、一時期は裕福な資産家やアーティストが、こぞって透視能力や遠隔操作能力を持つと自称する超能力者や、超能力を研究する科学者を支援した。厳格な現実主義者たちの集団であるはずの軍隊でも、超能力の研究に力を注ぎ、実戦投入しようとした。本書は推測やウワサに頼ることなく、公開されたアメリカ国防省の公文書や、研究組織に所属した関係者のインタビューを通じて、陸軍による超能力研究の実態を明かしていく。

日本でも70年~80年代にブームとなった超能力。そのブームの中心人物であるユリ・ゲラーも本書に登場する。また、超能力ブームの延長戦に存在した”超能力捜査”で数々のテレビに出演した自称”能力者”も登場する。要するに、アメリカ軍と日本のテレビの両方に主要人物が関わるくらい、超能力ブームとは閉鎖的で、少人数の間で起こったことなのだ。だが、あくまでアメリカ陸軍は超能力の研究にあくまで本気だった。そこにはソ連の影がちらつく。ソ連が超能力の研究をしているという情報が、アメリカ陸軍の上層部を惑わす。ここにも冷戦があったのだ。
だが、現実は厳しかった。奇跡は確かにあったのかも知れない。しかしそれは属人的なもので、軍が望むように「訓練して身に付く能力」ではなかったのだ。
本書は超能力を否定するものでも肯定するものでもない。だが、本書の最後にユリ・ゲラーが超能力を通して各国の要人と親しくし、またイスラエルの要人と親しくことを示唆しているのは意味深い。

初版2018/03 太田出版/ソフトカバー

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書評<ウルフ・ボーイズ――二人のアメリカ人少年とメキシコで最も危険な麻薬カルテ>

テキサス州ラレド。メキシコとの国境の貧しい街は、メキシコで跋扈する麻薬カルテルたちの影響を大きく受け、街の少年の多くは10代で犯罪に走る。そんな環境の中で、10代でシカリオと呼ばれる暗殺者となった少年たちと、それを取り締まる若き警官。本書はラレドの街とメキシコにはびこる犯罪と、10代にして終身刑になった少年の過激な行動とその内面に何があったのかを綴るノンフィクションである。

メキシコの国境の街に蔓延る麻薬カルテルについては、多くの書物や映画で取り上げられてきた。本書はその中でもライバルの組織やカルテル内の敵、果てはリーダーの元カノとその彼氏など、邪魔者は殺していくシカリオと呼ばれる暗殺者となった少年の物語である。アメリカの援助で訓練を受けた警官や兵士がカルテルに鞍替えし、少年たちを訓練する。修羅場をくぐり抜けた主人公たちは、殺人を重ねていく。貧しい街では手にすることのなかったカネとプライドを手に入れ、カルテルの幹部たちの指示に黙々と従う。だが、それもやがてカルテル同士の抗争の中でミスを犯し、警察に追い詰められていく。
本書は一方で、メキシコとテキサス、国境を挟んで揺れる人々の歴史の物語でもある。歴史の中で無理矢理引かれた国境線に翻弄される貧しい人々。残酷なカルテル、賄賂が常態化している警察はじめとする自治隊、政府組織。近年のカルテルの活動は、急に立ち上がったわけではないことを本書は教えてくれる。

初版2018/03 青土社/kindle版

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書評<遺伝子―親密なる人類史>

地球上の生物のセントラルドグマたる遺伝子。遺伝子はいつ発見され、その研究はどのように進んできたのか。そして、医療にはどのような影響を与えてきたのか。名著「がん‐4000年の歴史」の著者が遺伝子研究の歴史を辿る。

DNAとそこにコードされる遺伝子の研究と医学への応用はいまや各分野が先鋭化し、いわゆる「通史」たるものは意外と少ない。本書は医師である著者自身と、精神的疾患を持つ彼の家族の物語を軸にすえ、メンデルからはじまる遺伝子の発見と研究の発展を辿る。1つの謎を解けば10の謎が増える遺伝子に立ち向かう研究者たち。遺伝子解析が進みつつある中、倫理的な批判を受けながらも、果敢に遺伝子組み換えを医療に応用しようとする医師たちの物語を綴っていく。事実を淡々と積み重ねていくのではなく、あくまで医師や研究者たちを追い、彼彼女たちの個性にも触れながら歴史を辿っているので、決して無味乾燥な物語にはなっていないところが類書にない特徴であり、本書を遺伝子研究の歴史書の一級品たるものにしている。

初版2018/02 早川書房/kindle版

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書評<戦争の日本中世史―「下剋上」は本当にあったのか―>

手柄より死を恐れ、領土の安堵を求めた武士たち。悪人ばかりではなかった「悪党」。戦争大好きな朝廷の公家たち。戦時立法だった一揆契状など、南北朝以後の本当の日本の戦争の姿を、固定された歴史観から解放し問い直す。

太平洋戦争以後の近代史以後の知識しかないので、大河ドラマ視聴を中心に日本の中世を勉強し直しているが(笑)、その中でも呉座氏の著書は面白く、かつ信頼できると思っている。本書は著者の歴史解説書の中でも、南北朝以後の戦争の実態を一次資料を見直しながら検討し直したものである。
著者がたびたび指摘するのは、下剋上に代表される、2次大戦後の日本史研究の固定化された歴史観だ。社会主義、共産主義の理想が歴史の解釈に入り込んできた時代ゆえ、「ゲリラ戦で荘園の武士を打ち倒す」「戦争におたおたする公家さん」といった歴史解釈がなされたというのだ。著者は複数の資料を突き合わせ、その資料が書かれた年代と背景を検討し直すという作業のうえで、中世の戦争の実態を描き出すことに成功している。武士は悩み、公家は武力を行使し、僧侶も土地を支配する。教科書で習った浅い知識しかない自分には、目からウロコが落ちる解釈である。
それには著者の個性も必要だったと思われる。「野戦でゲリラが正規軍にかなうわけない」といった近代の戦争の知識も本書には必要だったのだと思う。戦争を忌避する学者に、500年以上前とはいえ歴史は語れない。ミリオタにとっても、抜群に面白い本だ。


初版2014/01 新潮社/新潮新書(kindle版)

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書評<激震! セクハラ帝国アメリカ 言霊USA2018 USA語録>

アメリカ在住の映画評論家である著者による、アメリカの現在を綴るコラム集。今回はトランプ大統領の”ご乱心”っと"me too"と呼ばれるセクハラ騒動がメイン。断片的に伝えられる"me too"運動の実態をユーモアを交えて綴っていく。

ハリウッド作の映画評論家で、リベラルな政治姿勢で知られる著者が、彼にも馴染みのあるハリウッド関係者のスキャンダルをどう斬るのか?それに興味があったのだが、結論からいうと事実の羅列に過ぎなくて、著者にしては毒が足りない気がするのだ。日本の古く時代遅れな社会を見下し、アメリカのリベラル勢力を上げるのが著者の基本姿勢だが、そのリベラルの象徴の一つであるハリウッドがヘタしたら日本社会よりヒドイ男尊女卑だったのだから、まあ筆も鈍るというものなのだろう。保守からリベラルへ移行していったはずのアメリカが、その内実に対立を抱えたまま、息が詰まるようなポリティカルコレクトネスが支配する社会と化している現実。そのことを本書も象徴しているのかも知れない。

初版2018/03 文藝春秋/kindle版

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書評<炎と怒り トランプ政権の内幕>

アメリカ大手メディアの予測を覆して選挙に勝利し、アメリカ合衆国大統領に就任したドナルド・トランプ。政治家としての経験がないトランプ大統領とその側近、ワシントンの常識を覆すことこそが自分の仕事だと承知しているトランプ大統領の発言と行動が、世界を混沌とさせている。その意思決定の現場であるホワイトハウスの中はどのような状態に陥っているのか?内部告発を巧みに組み立て、トランプ大統領就任後1年を暴いた問題作。

本書により、トランプ大統領は辞任に追い込まれるといわれたものである。それゆえ、早川書房としても異例の速攻翻訳・発売であったはずなのに、トランプ大統領の行動はもっと早い。本書に登場するトランプ大統領選出の官僚たちはほとんどいなくなったと言っても過言ではないし、外交や貿易政策もガンガンと新しい手を打ってくるので、本書に書かれていることなど、もはや過去の一場面に過ぎない。
一応本書に触れておくと、メインはバノン氏をはじめとしてオルタナティブ右派勢力と、ジャーヴィンカと呼ばれるトランプ大統領の娘と娘婿夫婦の派閥争いである。とにかく歴代の民主党選出大統領が打ち出した政策やグローバリズムの否定に快感を覚えるバノンと、割と穏健で常識的な方向に持っていきたいイヴァンカ夫婦の間で政策が翻弄される様は滑稽ですらある。4月中旬現在でバノンは退場したが、今度は強硬な右派、ボルトン氏が安全保障担当補佐官に就任し、またもや外交が見通せなくなった。世界の首脳は、少なくとももう3年はトランプ大統領に振り回される日々が続くだろう。


初版2018/02 早川書房/kindle版

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書評<ダ・フォース>

ニューヨークのマンハッタン・ノースと呼ばれる街の犯罪、すなわち麻薬、殺人、窃盗などを統合的に取り締まる特捜部、”ダ・フォース”。犯罪多発地域で、タフで優秀な警官たちを率いるデニー・マローンはこの街を統べる刑事の王であるが、悪徳警官でもあった。危ない橋をうまく渡ってきたはずのマローンは、ニューヨーク市当局とFBIの罠に嵌まり、破滅の道を歩み始める。

街の麻薬ディーラーやマフィアたちを相手にリベートを受け取るという悪徳と、「自分の街を守る」という使命感と正義の両立。危ういバランスを自らの中に保ちながら、犯罪を取り締まるマローンという存在を通してみる、ニューヨークのダウンタウン。麻薬の蔓延や人種差別などをリアルに描きながら、警官は、街とは何かを問う警官と犯罪の物語は読者を圧倒する。そして、華やかな世界有数の都市であるニューヨークの裏の顔の圧倒的なリアル。現場の警察と市当局の乖離、市当局と連邦政府の対立など権力を争うエリートたちの薄汚さに比べれば、マローンは確かに街の王である。ページをめくる手が止まらない物語とは、この物語のことをいうのであろう。


初版2018/03 ハーパーコリンズ・ジャパン/Kindle版

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書評<陰謀の日本中世史>

日本中世史、幕府と朝廷の支配が交差し、様々な地方の武士がのし上がってきた時代には、様々な陰謀論が存在する。代表的なものが「本能寺の変」であろう。”黒幕”の存在がいろいろな論者から唱えられるが、果たして真実はどこにあるのか?分厚い日本中世史の知識を持つ著者が、日本中世史の中の陰謀論を検証していく。

「陰謀論」はいつの時代にも、どこにでもある。アメリカなど、月着陸やケネディ大統領暗殺、あるいは9.11同時多発テロの”真実”は別のところにあると信じる人が人口の半数にものぼるそうだ。それは日本も同じで、歴史の中には陰謀論が溢れている。日本史は戦後の定説が新資料の発見によって覆されているので、余計に歴史解釈が分かれるのかも知れない。
本書で特徴的なのは、古参の学者の唱える陰謀から、突飛で新奇な新説まで、基礎資料を読み解きながら的確に反論していることであろう。当時から現在に伝わっている書物の傾向を丁寧に読み解いて、複数の資料をあたり論説を組み立てる著者の唱える”反陰謀論”は、非常に説得力がある。また、戦後のマルクス主義や唯物論に捕らわれた戦後の日本中世史解釈を批判する著者ならではの解説も新鮮だ。
ワタシのような日本史勉強初心者に、日本史の勉強の仕方を教えてくれているような本であった。

初版/2018/03 角川書店/角川新書

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書評<イラストでまなぶ! 戦闘外傷救護 -COMBAT FIRST AID->

イラスト、あるいは女性モデルで戦闘外傷救護の基礎を学ぶことが出来るイラスト本である。表紙からは想像できないが、銃創や創傷への緊急対応マニュアルになるべきものである。

日本は救急救命というと、心臓疾患への対応が多く、大量出血への対応など、一般人の知識は皆無であるといっていい。しかし、70年代の連続企業爆破テロ、90年代のオウム真理教のサリン事件、近年では秋葉原歩行者天国へのトラック突入や相模原障害者施設大量殺傷事件など、日本は被テロの先進国であり、またどこでテロが起きるか分からない。そうした中で、大量出血に対する緊急対応など、本書には学ぶことが多い。ただでさえ、日本の消防・救急救命の装備はアメリカなど先進国に劣っているといわれている。我々一般人も、意識を変えることを示唆されている一冊である。

初版2018/03 ホビージャパン/ソフトカバー

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書評<ミリオタJK妹! 異世界の戦争に巻き込まれた兄妹は軍事知識チートで無双します>

兄妹でミリタリー系ラノベ作家である宗也とみぐ。兄妹は、突然滅びかけた異世界の王国に召喚される。その世界で人類は最弱の存在であり、現実に竜人の軍団に最後の都市を包囲され、絶滅寸前であった。軍事と歴史の知識が豊富な宗也は王女に仕える参謀として、肉体派のみぐはわずかに持ち込んだ現代のツールを駆使し、圧倒的に不利な状況を打開しようとする。

「ミリオタが異世界に召喚されたら」系のラノベは多くあるが、多くのミリオタが抱える矛盾を昇化させてくれる物語だ。召喚された王国は異世界の全般状況から現実を掴めておらず、古いイデオロギーから自らを滅びの道に招いている状態。「戦争はキライだけど、戦争に関する知識を愛している」ミリオタが存分に活躍できる舞台が用意されているのだ。もちろん、不利な状況に知識だけで勝てるわけではないが、そこはみぐがいわば「強硬偵察部隊」として兄を助ける。コミカルな場面ももちろん満載で、読み応え充分のラノベである。


初版2018/02 SBクリエイティブ/GA文庫

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