書評<徹底検証 日本の右傾化>

第2次安倍政権発足のころからか、にわかに「日本社会の右傾化」が一部論者から叫ばれるようになった。東アジアの近隣へのヘイト、反戦運動に代表される左翼的価値観の衰退、保守的な価値観の復活など、確かに様々な変化があることは確かだ。では、それが”社会の右傾化”といえるのか。宗教、家族、LGBTなど価値観が分かれる分野の専門家たちが分析する。

自分自身はネット上では「ネトウヨ的な意見」を口にしていることを自覚している。なので、「日本の右傾化」なるものは「無防備都市宣言」といった非現実的な反戦主義に対する反動だと思っている。だが、本書では多くのものが学べる。我々がフツーに生きてニュースに接している限りは浮かび上がってこない、宗教的、保守的な価値観の勢力だ。本書でたびたび登場する「日本会議」がその代表であろう。いわゆるリベラル的な価値観をよしとしない人々は確かに存在し、政治に影響をおよぼそうとしているのだ。それらの知識を得られるだけでも、本書には価値があろう。
世界的に「リベラル、グローバル化」といった価値観に疑問が呈されている中で、今はまだ、さほど力を持たないそれらの”右翼的勢力”が政治に影響を及ぼしていくのか?変わる世界の中で、日本も”戦後ではいられないのである。

初版2017/03 筑摩書房/ソフトカバー

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書評<ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち>

2016年のトランプ大統領の当選により、オハイオ州やその周辺のいわゆる”ラストベルト”(錆ついた工業地帯)と呼ばれる地域の白人たちが注目されることとなった。東海岸や西海岸の都市圏の発展から取り残され、学も職もなく、底辺を生きざるをえない、古くからのアメリカ人たち。彼らのおかれた環境とはどのようなものなのか?現在は故郷を離れていわゆるエリート層に属することになった著者がその経歴と家族の物語を語ることにより、繁栄に取り残され、エリートや移民を憎む彼らの実態を明かしていく。

トランプ大統領の選挙戦の勝利が「貧困白人たちの怒り」に押されたものであったことは、マスコミなどでもずいぶんと放映された。本書はその手がかりとなるものだが、アメリカという国のかたちを改めて考えさせられる。
「分断したアメリカ社会」といわれる昨今だが、そもそも、いわゆる鉄鋼など旧来の重工業が衰退する以前も、アメリカは分断していた。家族、故郷との絆が深く、大学への進学あるいは故郷を離れて働くことが非現実的な人たち。彼らが中間層でいられたのは、工業地帯があったからだ。世界的な競争の中で重工業が衰退すると同時に、彼らは他の生き方も分からずに、貧困層に落ちていく。失業こそが、社会で一番の害悪であると理解できる。
著者は、白人たちの生き方自体も指摘する。教育がないのではない。時間を守るといった基本的な約束事を守れない、離婚と結婚を繰り返す親たちとそれを見て育つ子供たち。移民であれ誰であれ「誰かのせいにすべきではない」と著者は唱える。
アメリカの田舎の価値観を知ることが出来ると同時に、彼らの価値観の中から、教訓をえられる”エレジー”である。

初版2017/03 光文社/ソフトカバー

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書評<錆と人間 (ビール缶から戦艦まで)>

人間が鉄を道具として久しいが、それは錆との戦いの歴史でもあった。テクノロジーが発展した今でもそれは変わらない。建物や橋、パイプラインといったインフラから缶詰まで、多くの人間が錆との戦いを職業としている。本書は腐食と戦う人間を扱ったノンフィクションである。

本書は腐食し、その運命が怪しくなったニューヨークの女神像の改修のエピソードからはじまる。冶金技術や合金技術、塗装技術が発達した近代・現代でも、エンジニアたちは錆と戦っている。我々の身近なものでいえば、缶詰や缶飲料がそうだ。食品や飲料に含まれる酸は、鉄を侵していく。ゆえに、鉄と食品を遮断するコーティング技術は缶メーカーの秘中の秘だ。発がん物質が含まれているともいうが、真実は定かではない。
規模の大きな事例だと、最終章のパイプラインのメンテナンスは圧巻だ。数百㎞におよぶステンレスのパイプラインを維持するテクノロジーの数々。人類が鉄を使うようになっておそらく数千年は経つはずだが、我々はまだそれを使いこなせていないのだ。
錆との戦いは人類とテクノロジーの関係を象徴していると感じさせる一冊だ。


初版2016/09 築地書館/ハードカバー

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書評<ドラッグと分断社会アメリカ 神経科学者が語る「依存」の構造>

アメリカにおけるドラッグに関する犯罪は深刻であるが、とうのアメリカ人の多くが、ドラッグとその犯罪発生のメカニズムを誤解している。ゆえに、効果的かつ根本的な解決策を政策として実行していない。著者は自分の半生を赤裸々に語ることで、そのことを明かしていく。

本書はドラッグに関する社会学や犯罪学の本というよりも、黒人の神経学者の具体的体験を軸に、ドラッグ依存の問題と誤解を分析するものである。著者はフロリダの黒人街の生まれで、多くの姉妹を持ち、複雑な人間関係のもとで育っている。著者は幸運にも黒人街から遠く離れ、大学教授として成功している。だが、多くの親類・友人たちは貧しい黒人街にとどまったままだ。彼は地元とは分断してしまった。ゆえに、ドラッグと社会構造の歪な関係を指摘できる立場にある。
神経学者である彼は、動物実験や人間の被験者を通して、ドラッグ(この場合はコカインクラック)がさほどの依存性がないことを指摘する。実際問題として、コカイン体験者のほとんどは依存症には至らない。ではなぜ、人はドラッグを買うのか?それは貧困ゆえに未来のない人生ゆえであり、その不安からドラッグに手を出すし、その取引額の大きさから犯罪に手を染める。そこに人種問題が絡む。ドラッグ経験者は人種を問わないが、逮捕者は圧倒的に黒人が多い。警察はてっとり早くストリートの黒人をしょっぴくのだ。多くの黒人少年たちはそれを繰り返すうち、本物の犯罪者になる。例えばメキシコからのコカイン密輸ルートが断てたとしても、貧困、人種といった社会的な問題が解決しなければ、それに代わる薬物が出てくるだけである。
著者が神経学者でありながら、案外とそれに関する記述は少ない。本書はあくまで著者本人の自伝と、日本人があまり知ることのない黒人社会の実際を知ることが出来る本と見なすべきであろう。


初版2017/01 早川書房/ハードカバー

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書評<毒々生物の奇妙な進化>

世界には哺乳類、爬虫類、水棲生物、昆虫問わず、多くの毒を持つ生物がいる。人間をも瞬時に死に至らしめる毒を持つ生物も多く、そのことが逆に多くの生物学者を引きつけている。本書は数少ない毒を持つ哺乳類であるカモノハシをはじめ、多くの毒の持つ生物を取り上げ、奇妙とも必然ともいえる進化の謎にせまっていく。

我々はヘビあるいはフグなど多くの毒を持った生物を知っているが、意外とその毒が具体的に何に作用し、激痛や死をもたらすのか、意外と理解していない。本書は著者の多くの体験を通して、それら毒を持つ生物の実態にせまっている。
生物の毒とは、主に神経毒と血液毒に分かれる。とはいえ、多くの生物が他者に”射ち込む”のはそのカクテルだ。それゆえ解毒はやっかいである。それら恐ろしい生物は、逆にいえば体内で毒を生成するため、多くのエネルギーを使っている。果たして、それは生きていくうえで収支があっているのか?あまりシロウトが思いつくことのない視点で、毒をもつ生物を解説する。
また、定説を覆すエピソードもある。コモドオオトカゲは、今でもテレビなどでは「口の中の雑菌が咬まれた生物を腐敗させる」と解説されることもあるが、実際にはオオトカゲは毒腺を持っているのだ。
一方で、まだ生物の毒には分からないことも多い。それゆえ、研究は続いているし、謎を解けば「毒と薬は紙一重」という言葉にもあるとおり、人類を救う薬の原料となることもあるのである。生物の謎の1つを探りたい方におススメだ。
 
初版2016/02 文芸春秋/ハードカバー

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空自那覇基地「美ら島エアーフェスタ2016」に行ってきた その②「基地祭2日目編」

「美ら島エアーフェスタ2016」、2日目の午前はせっかく沖縄に来たので、観光の代表格、首里城公園にまず移動。
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建物の歴史などの諸々よりも、回りの観光客の若さに驚きました。修学旅行の団体客はじめ、外国の方と思われる方も若い。老人のツアーばっかりの他の観光地と一線をかしています。こと観光については、沖縄の未来は明るい。
そしてまた、ゆいレールで基地へ移動。
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基地防空用の新短SAMやチヌークの放水用バケツなど、珍しい装備展示を眺めつつ、展示フライトを待ちます。
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小柄な女性整備員さん、札幌の某モデラーさんに似てるなあ、とか思いながら飛び立っていく自衛隊機を眺めていると、展示飛行開始。
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展示飛行とはいっても、民空の離着陸の間に航過飛行を行う感じ。せめてもう少し、近くを飛んでくれればなあ。

というわけで、ブルーは帰りの飛行機の関係でオミット。基地の外周を歩いて那覇空港のターミナルへ向かい、しばしの休憩の後にフライト。まことに充実した2日でありました。また行きたいなあ、沖縄。

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書評<誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち>

音楽を巡る環境、意識はここ20年で大きく変わった。音楽の販売方法の中心ははCD販売からデータのダウンロード販売に移行し、しかも今の若い人たちは違法ダウンロードにさして抵抗もない。この状況はどうして生まれたのか?大衆が求める音楽を的確にかぎ分けるメジャーレーベルのドン、音楽を圧縮する技術を開発した科学技術者、CD工場から未発売のCDを窃盗する男。3人の人生を通して、音楽産業の急速な変化を描き出す。

本書はさほど固い歴史書などでない。むしろ、3人の男たちの冒険の物語だろう。とにかく大衆が求める音楽を追求していった結果として、自らを追い出したレーベルを買収するほどに成長した会社を率いるプロデューサーの、金を生み出す才覚。ただ優れた技術を開発するだけでは世界規格になることは出来ず、政治を学んでいく技術者。お金というよりも、むしろネットのヒーローとなるために窃盗を続ける男。3人の熱が、CDアルバム販売という主流を切り崩していく様子は、どう考えてもワクワクする冒険、強烈な熱を持っている。画期的な技術が違法行為を呼び、違法行為が巨額を貪るメジャーレーベルを潰していく。音楽を生業にしている方々には申し訳ないが、痛快ですらあるのだ。抜群に面白い一冊だ。

初版2016/09 早川書房/Kindle版

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書評<サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ>

Jリーグが開幕して20年余り。J2、J3も設立され「おらが街のJチーム」が数多く誕生する中、企業チーム、あるいはクラブチームとして、地域リーグの頂点としてのJFLで戦い続けるチームが、全国には数多くある。そこには地域の歴史、人の歴史が積み重なっている。本書はそうしたチームを丹念に取材し、クラブを巡る物語を紡いでいく。

本書に登場するクラブは北は青森から南は宮崎まで、まさに全国津々浦々まで及ぶ。なので取材期間も長く、クラブを巡る状況が現在は変わっているチームも多くある。サッカーを巡る物語は決して止まることなく、続いていることをまず実感する。
JFL所属のチームというと企業チームも多く、企業側の都合に振り回されるイメージが強いが、むしろ関わる人物によって大きく状況が変わっていくというのも、本書では印象的だ。様々な理念、信念をもった人物が地域や企業を動かし、引っ張っていく。理想だけではクラブチームは存続できない。変化していく状況に対応することこそが、生きていく道。そんなことを教えてくれる一冊だ。

初版2016/11 カンゼン/ソフトカバー

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書評<さらば白人国家アメリカ>

アメリカの大手マスコミの予測を覆し、2016年のアメリカ大統領選に勝利したトランプ氏。彼の勝利は、先進国の政治情勢の潮目が変わったことの象徴として、いまだ様々な議論がなされている。本書はアメリカ在住の映画評論家である著者が、共和党・民主党両方の候補を決める予備選挙の段階から、実際に大統領選の選挙集会に出席するなどして生の声を拾い、なぜ泡沫候補と思われていたトランプがアメリカ大統領選の有力候補になりえたかをレポートする。

最初に断っておくと、本書は大統領選の投票直前までに各種媒体に掲載された記事を集めて発売されており、結果から2016年のアメリカ大統領選を分析したものではない。トランプが他の共和党候補に競り勝ち、これまでなら致命傷となっていた多くの失言にも関わらず票を集めたわけを著者は「白人国家アメリカの危機感」と分析しているが、それは大統領選後のマスコミの論調と似かよっている。著者はアメリカで起きていたことを正確に把握していた。「オレの好きだったアメリカは変わった」という言葉がそれを象徴している。それでも、著者はヒラリーの勝利を予測して、本書は終わっていた。今となっては、著者の予測は願望に近いものだったのだろうと感じる。著者はアメリカに絶望しているかもしれないが、実際にトランプの施政が始まった後こそが、アメリカのさらなる混乱の始まりだと個人的には思うので、アメリカからのレポートを続けてほしい。

初版2016/10 講談社/kindle版

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書評<ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン>

第2次世界大戦で、日本がアメリカに勝利し、占領統治している世界線。「メカ」と呼ばれる巨大なロボットが都市を睥睨し、反政府勢力に睨みを効かせている。日本軍の出世コースから外れた主人公はなぜか命を狙われ、その原因と思われる幹部を特高警察の女性を探すこととなる。

「パシフィック・リム」の世界を彷彿とさせる素晴らしい表紙に魅かれて買うと、まず詐欺だと感じてしまうSF。世界は日本軍に管理された世界と、管理下を逃れたグロテスクな世界で構成されていて、”メカ”は単なる1つのガジェット。オビにある「高い城の男」のオマージュに近いが、むしろ冲方丁の「マルドゥックスクランブル」の世界に近いと思う。早川書房さんの商売の上手さが際立った作品としか言いようがないのが本音の感想だ。

初版2016/11 早川書房/ハヤカワ文庫SF

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